遺言、相続及び相続税(基礎編)


Q1)そもそも相続はいつから始まるの?
A1)相続は財産(家、現金、預金等)、債務(住宅ローン、未払い税金など)を持った人が死亡した時点で開始します。

Q2)相続税はだれもが払わなくてはならないの?
A2)相続税は、取得した相続財産の総額が遺産に係る基礎控除額を超える場合に、その超えた額に対して課税されます。
  基礎控除額は〔3,000万円+600万円×法定相続人〕で求められます。
  例えば、夫婦二人、子二人の家庭で、夫が死亡した場合、
     3,000万円+600万円×3人=4,800万円
  この4,800万円を超えた額に対して相続税が課せられます。

Q3)相続税の額はどうやって決まりますか?
A3)相続税は相続人各々の相続財産の金額に税率をかけて算出されます。
a)相続税率は取得する財産の額によって変わります。             
各人の取得金額 相続税率 控除額
①1,000万円以下 税率10% 0円
②1,000万円超~3,000万円以下 税率15% 50万円
③3,000万円超~5,000万円以下 税率20% 200万円
④5,000万円超~1億円 税率30% 700万円
⑤1億円超~2億円以下 税率40% 1,700万円
⑥2億円超~3億円以下 税率45% 2,700万円
⑦3億円超~6億円以下 税率50% 4,200万円
⑧6億円超~ 税率55% 7,200万円
(例1)遺産(相続財産)が5,000万円あり、相続人が子一人の場合、
   50,000,000 - (30,000,000 + 6,000,000) =14,000,000(課税価格)
   14,000,000 × 15% - 500,000 =1,600,000円(相続税額)
   となります。
(例2)遺産(相続財産)が1億円あり、相続人が妻、子二人で、法定相続で相続財産を
配分する場合
   100,000,000 - (30,000,000 + 6,000,000*3) =52,000,000(課税価格)
   相続財産の配分額 
妻 :52,000,000×1/2=26,000,000
    子1:52,000,000×1/4=13,000,000
    子2:52,000,000×1/4=13,000,000
   相続税の税額
26,000,000×15% - 500,000 =3,400,000
    13,000,000 × 15% - 500,000 =1,450,000
    13,000,000 × 15% - 500,000 =1,450,000
    3,400,000+1,450,000+1,450,000=6,300,000
   個々の税の負担額は相続財産の配分割合で決定します。
また妻は相続財産が1億6,000万円以下の場合は税額を0円に軽減できます。
妻 :6,300,000×1/2=3,150,000 → 0へ
    子1:6,300,000×1/4=1,575,000
    子2:6,300,000×1/4=1,575,000
      1,575,000+1,575,000=3,150,000円(相続税額)
 
b)相続税法上の相続財産は以下の計算によって算出されます。
  ①取得財産 + ②みなし取得財産 + ③相続開始前3年以内の贈与財産
- ④非課税財産 - ⑤債務 - ⑥葬式費用 = 相続財産
①の取得財産とは、家、土地等の固定資産、現金、預金、有価証券などを指します。
②のみなし取得財産とは、生命保険金や退職金等を指します。
④の非課税財産は、弔慰金や生命保険金や退職手当金等の一定額等※を指します。
※ 生命保険金の非課税枠 = 500万円×法定相続人
退職手当金等の非課税枠=500万円×法定相続人
⑤の債務とは、故人の借金などを指します。
⑥の葬式費用にはお墓の購入代金や香典返しの費用は含まれないのでご注意ください。

Q4)家屋、土地の固定資産の価格はどうやって決まるのですか?
A4)家屋、土地に限らず、相続財産はすべて時価で評価されます。
  具体的には、家屋の評価は固定資産税評価額をもとに算出されます。固定資産税評価額は固定資産税の納付書の明細に記載されていますし、所轄の市町村に請求すれば取りよせることができます。
一方、土地(ここでは家屋が建てられている宅地を指します)は国税庁のホームページで公表されている路線価等をもとに算出されます。
また、居住用の土地は小規模宅地等の特例という制度を利用すれば330㎡を限度に、土地の評価額の80%も減額されます。

Q5)遺産をもらえる権利があるのは誰ですか?
A5)民法で定められた「法定相続人」と、遺言によって遺贈される「受遺者」が遺産を受け取ることができます。
 a)「法定相続人」とは、原則として故人(以下被相続人)と一定の血族関係にある人を指します。配偶者、直系卑属(子供、胎児、孫)、直系尊属(故人の両親、祖父母)、個人の兄弟姉妹(兄弟姉妹が死亡している場合はその子、つまり甥や姪が相続人なります。
 b)遺言によって遺贈される「受遺者」
   故人(以下、被相続人と言います)が生前に遺言で指名した人も、被相続人の遺産を受け取ることができます。この場合、受遺者は、被相続人と血族関係である必要はありません。

Q6)法定相続人は全員が、被相続人の財産を相続できるの?
A6)法定相続人には、順位があり、その順位に従って遺産は相続されます。第一位が子ども、第二位が被相続人の父母・祖父母、第三位が被相続人の兄弟姉妹となっています。また、被相続人の配偶者はこの順位とは別に常に相続人なります。
 a)配偶者と子どもについて
配偶者は、どんな場合でも相続人になれますが、ここで言う配偶者とは、法律上婚姻届を出している夫婦のことで、内縁関係では配偶者には認められません。
   子どもは、実子、養子、認知された非嫡出子が相続人になります。
ただし、実子は全員相続人なれますが、養子の場合、実子がいない場合は二人まで、他に実子がいる場合は、一人までしか相続人になれません。また、非嫡出子も認知されていなければ相続人なれません。
 b)子どもの誕生の前に相続が発生した場合、民法では胎児をすでに生まれた子どもととみなして相続権を認めています。ただし、死産、流産で胎児が死亡した場合は、その相続権は自然に消滅します。
 c)次のような場合、被相続人の父母・祖父母が相続人なります
①被相続人子供が無く、故人の配偶者と父母が生存の場合
②配偶者も子供いなくて父母が生存の場合
③父母も死亡していてその祖父母が生存の場合
 d)兄弟姉妹が相続人なるのは以下のような場合です。
①被相続人に子ども無く、父母・祖父母も死亡し、配偶者と兄弟姉妹が生存の場合
②被相続人に、配偶者、子ども、父母、祖父母もなく、兄弟姉妹のみ生存の場合
 e)被相続人の子供が被相続人より先に死亡していても、被相続人の直系卑属である孫がいる場合は、被相続人の父母や兄弟よりも、孫が優先されます。これを「代襲相続」と言います。
   この直系卑属への代襲相続は延々と続けることができ、例えば、子どもも孫もいないが、ひ孫がいる場合も再代襲が行われます。
 f)被相続人に配偶者、子ども、父母、祖父母、兄弟姉妹もなく、兄弟姉妹の子ども(甥や姪)がいる場合、その甥、姪に「代襲相続」が行われます。しかし、甥、姪の子供への再代襲はありません。

Q7)生前、被相続人が働いていて収入があった場合、その所得税はどうなるのですか。
A7)被相続人がサラリーマンの場合は、会社の方で死亡した時点で退職した者として年
末調整等をやってくれますが、自営業の場合、死亡後4カ月以内に準確定申告をする必要があります。

Q8)遺産はどのように分けられるの?
A8)被相続人が遺言によって相続を指定していなければ民法の定めに従い「法定相続分」で財産は分けられます。
 a)相続人が妻と子どもの場合
   妻の相続分が1/2、子どもがその残りです。子どもが一人なら、取り分は1/2ですが二人以上なら、その1/2を子どもの頭数で等分します。
 b)相続人が妻と父母・祖父母の場合
   妻の取り分が2/3で、父母・祖父母の取り分は1/3になります。
 c)相続人が妻と兄弟姉妹の場合
   妻の取り分が3/4で、兄弟姉妹の取り分は1/4になります。 

Q9)被相続人が借金をしていた場合、その借金も引き継がなければなりませんか?
A9)相続には①単純承認、②相続放棄、③限定承認があり、どの方法を選択するかによって変わります。
 a)単純承認とは、資産のプラス・マイナスに関係なくあるがままに承認し、相続することです。この場合、借金もそのまま引き継ぐことになりますので、借金が財産を上回ると、その差額分は相続人が弁済しなければなりません。
 b)相続放棄とは、相続の開始があったことを知った日から3カ月以内に家庭裁判所に「相続放棄の申述書を」提出し、それが受理されれば、相続放棄をすることができます。この場合、借金は引き継がなくてもいいのですが、財産ももらえません。
 c)限定承認とは、相続によって得た財産の限度以内で被相続人の借金を継承する、というものです。この場合、相続人が自腹を切る必要はありません。
限定承認をするには、自分が相続人になったことをした時点から3カ月以内に家庭裁判所に「限定承認申述書」を提出し受理されなければいけません。

Q10)遺言書はどうやって作るのですか?
A10)遺言書の主な方式にはa)「自筆証書遺言」、b)「公正証書遺言」、c)「秘密証書遺言」があります。
 a)自筆証書遺言とは、被相続人(ここでは遺言者)が自分で遺言書の全文日付、氏名を自書して押印して作成します。被相続人が好きな時に作成できるため、内容が漏れる恐れが少ないですし、印鑑も実印である必要はありません。ただし、相続時には家庭裁判所の検認手続が必要です。
また、この遺言書はタイプやワープロ書きは無効です。さらに、遺言者の知識不足のため、書式の不備や内容が不明確になりがちという短所があります。
 b)公正証書遺言とは、公証役場で二人以上の承認の立会いの下で遺言者の口述に沿って公証人に遺言書を作ってもらうというものです。
 書式の不備等は無くなりますが、証人が必要のため、内容が漏れる恐れがあることや、公証人に手数料を支払う必要があります。
 c)秘密証書遺言とは、遺言者が遺言書を作成・署名押印・封入後、公証人役場で自己の遺言書のある旨の証明をしてもらうというものです。ただ、証人が2名以上必要の上、要件不備の場合は無効になります。
また、遺言書発行の際には、家庭裁判所の検認の手続きが必要になります。

Q11)遺言書はどうして作った方がいいのですか?
A11)遺言書は故人の最後の意思ということで、遺言書に指定された遺産分割方法は「法定相続」による遺産分割よりも優先されます。子どもがいないので全財産を妻に残したい場合や、「代襲相続」ではない孫に一部財産を譲りたい場合等を想定して事前に遺言書を作成することは賢明です。

Q12)故人が遺言書を複数作っていた場合はどうなりますか?
A12)遺言書が複数存在する場合は、最も新しい日付のものが有効になります。

Q13)遺言で全財産を他人に譲るとされていた場合、妻子の相続分は0円ですか?
A13)妻子の相続分は0円にはなりません。というのは、日本の法律では遺言書よりも優先される「遺留分」というのが定められているからです。「遺留分」とは被相続人が自由に処分できない部分のことであり相続人がもらえる一定の割合を言います。
    具体的には、法定相続人が配偶者と子どもの場合、財産の1/2が遺留分として守られます。また、相続人が親だけの場合、財産の1/3が遺留分になります。
    ただし、法定相続人が兄弟姉妹のみの場合は、遺留分はありません。

Q14)相続税の申告・納付はいつまでにすればいいのですか?
A14)被相続人が死亡後10カ月以内に被相続人の住所地の所轄税務署に相続税の申告書を提出し、税金を納めなければいけません。