このQ&Aでは、公認会計士、弁護士、税理士などの専門家と付き合いないサラリーマンなどの方々に焦点を合わせて、解説します。
遺言、相続及び相続税(実務編)
Q1)「死ぬのは今だ(?)」
A1)先代の桂文我師匠の十八番の中に「死ぬのは今だ」という演題があります。閻魔大王に賄賂を使ったのですが、本人は知らず歌舞伎などで使う小道具の百両だったので、これが地獄中に蔓延し、極楽の警察の知るところとなり、地獄の主立った役人が極楽の留置所に入って、地獄は空っぽになっているので、落ちとして「死ぬのは今だ」となります。
相続税から言いますと、平成26年12月までは旧の税制なのですが、平成27年1月1日相続開始から大増税となってしまっています。
Q2)大増税の中身は?
A2)地価バブルの後に基礎控除などが見直されたのですが、これをバブル前の水準に戻そうとしているのです。増税は、消費税だけではありません。主な項目は、次の通りです。
イ)基礎控除額
平成26年12月まで:5,000万円+1,000万円×法定相続人
平成27年1月から: 3,000万円+600万円×法定相続人
ロ)税率
2億円以下は従来通りですが、これを超えると、次のように増税となります。、
a)2億円超 3億円以下 40%→45%
b)3億円超 6億円以下 50%→50%
c)6億円超 50%→55%
ハ)未成年者控除、障害者控除及び特別障害者控除の税額控除
未成年者控除20歳になるまでの期間に対し、1年につき6万円→10万円
障害者控除:85歳になるまでの期間に対し、1年につき6万円→10万円
特別障害者控除:85歳になるまでの期間に対し1年につき12万円→20万円
Q3)大衆増税?
A3) 相続人が配偶者と子供2人の場合で、比べてみましょう。
a)課税価格が1億円のとき:100万円→315万円
b)課税価格が1.5億円のとき:463万円→1,350万円
c)課税価格が2億円のとき:950万円→2,860万円
c)課税価格が3億円のとき:2,300万円→5,800万円
d)課税価格が10億円のとき:1億6,650万円→1億7,810万円
今まで、相続税と縁の無かった庶民にも対象が広がり、一説には都市部では課税される割合が、数%から十数%に倍増すると言われています。
資産家も相続税が増えますが、大きな金額であるほど、事前の対策が可能となって参ります。
それと、取る側の論理から言いますと大衆課税ほど、確実に大きな税収を確保できます。
Q4)生命保険金の非課税枠
A4)生命保険金は、本来の相続財産ではないのですが、みなし相続財産として相続税の課税対象となります。(被相続人が被保険者で保険契約者(保険料負担者)ある場合ですが、ほかの場合は、複雑です。税務署等にお尋ねください。)ただし、500万円×法定相続人は非課税ですが、民主党政権下の平成25年度改正案では、法定相続人だけでなく、生計を一にするという条件がついていました。関電副社長のようにお中元、お歳暮を政治家に贈っていたのでは(?)と邪推したくなります。この改正案は、幻になりました。
ともかくも、法定相続人×500万円の非課税枠は確保されました。
Q5)小規模宅地の評価減
A5)被相続人の自宅土地建物については一定の条件の下に20%の評価となります。この評価減については、ある場合には適用範囲が広がりましたが、同居の親族がいない場合などにも認められていた50%評価の規定が、先に廃止されました。
Q6)夫婦に子供がいない場合
A6)ご夫婦にお子様がいない場合、一方がなくなったときには法定相続人は、配偶者と第1順位で父母が、第2順位として兄弟姉妹がなりますが、それぞれ法定相続分が、1/3,1/4ありますので、遺言書がなければ、残った配偶者は遺産分割協議をして、請求があれば、1/3ないし1/4の分割をしなければなりません。
現在の民法は、戦後に新憲法に沿って大改正が行われましたが、戦前の「家の制度」が色濃く残っていまして、夫婦の財産形成に全く関与していない兄弟や甥姪に財産を分け与えなければならないケースが出て参ります。
是非とも遺言書を作成し、お互いに万一の場合に故人のご遺志に従った分割にされますことをお勧めします。遺言書により、配偶者のみを相続人に指定しても父母や兄弟(ないし甥や姪)に遺留分はありません。
遺言書がない場合には、合理的な分割を期待して、解決を法律家に依頼しても法定相続分に従った遺産分割が行われます。
Q7)Shall We Dance?
Q7)「Shall We Dance?」といえば、古くはユル・ブリンナーが主演のシャム(タイ国)の王様と英国人家庭教師とのラブロマンス映画の主題歌ですが、その後、日本で同名の映画が作られて、それをハリウッドがリメイクし、表題の映画が作られました。
リチャード・ギアが演ずるのが、遺言専門の弁護士さんでした。映画で見る限り、遺言を必要な方に遺言書を作成し、本人のサインをもらって、その弁護士さんが遺言書を保管する方式のようでした。映画ということもありましょうが、温厚な弁護士さんで、日本の訴訟を主な仕事にし、人によっては、喧嘩腰でものを言う弁護士(市長?)さんとは、少し違うようでした。
日本では、公正証書遺言という費用も手間も多く必要な大げさな方式と自筆遺言書という、一見、簡易な方式があるのですが、全文自筆で作成しなければならず、訂正の方法も厳格な方式があります。現行法では、ワープロで作成し、署名押印したものは認められません。新憲法の公布で、民法も変わったのですが、基本的には、遺言書に関する法律は百年前と同じようです。
自筆証書も増えていますが、これに対応する金融機関や登記所が、形式的な不備を根拠に預金解約や相続登記を渋ることも多いようです。酷い銀行になりますと頭から「うちでは、自筆遺言は扱いまへん。判決を貰ってから来てください。」といったことを平然と言います。
遺言の作成や執行は銀行や弁護士さんがされることが多いのですが、結構、費用がかかります。頃合いの遺言の方式がないのです。
Q8)自筆遺言書のすすめ
A8)自筆遺言書作成に費用は必要ではありませんが、法律が古いままですので、書籍を買うか、司法書士などの法律に詳しい方の相談にされますことをお勧めします。
a)全文、自筆で書くこと。鉛筆を排除する規定はありませんが、ボールペンか、万年筆で記入します。
b)通常末尾に「日付(平成26年12月31日のように明確に)」、「氏名」を記入し、認め印を押捺する。
c)「相続人〇○に次の財産を相続させる。
1)〇○市〇○町××番地の× 宅地 ××平米 ・・・ 住宅表示でなく地番で書いてください。
2)〇○銀行〇○支店 定期預金(口座番号××)及び普通預金その他の預金」と書きます。
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最後に「その他財産負債を相続人〇○に相続させる。」として、記載していない財産負債についても帰属を明らかにされた方がよろしいでしょう。
訂正は、一定の方式があります。一般常識的な方法ではありませんので、ご注意ください。
遺言書は、いつでも変えることはできますが、 高齢化とともに判断能力も落ちて参ります。心身ともに健全な状態で、熟慮の上作成されまして基本的には変更しないことをお勧めします。
Q9)相続人の中に未成年がいる場合
A9)相続人の中に未成年がいますと、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立て、遺産分割協議には、特別代理人の押印が必要です。なお、相続人以外は誰でもなれます。第三者である必要はありません。
この選任申し立て手続きは、相続人でも出来ますが、司法書士等に書類作成を依頼しても2,3万円ですみます。不動産登記も依頼されることが多いでしょうから、同じ司法書士に依頼されてはと存じます。
Q10)「諸刃の剣」
A10)相続税対策はいろいろな書籍やホームページで紹介されてますが、良いことばかりではありません。相続そのものをより良いものにし、さらに節税策のメリット、デメリットを総合的に判断し、決めるべきものです。 節税ばかり頭にありますと、失敗されますので、ご注意ください。
Q11)生命保険金の非課税枠(法定相続人×500万円)
A11)上にQ&A4)で示しましたように政治とお金のバランスで、現状は非課税枠は保たれていますが、バランスが崩れて、規定そののものがなくなる可能性があります。
Q12)遊休地の土地活用
A12)バブル時に流行った手法ですが、建物は建築価額の7割程度になり、敷地は、貸家建て付け地となり、一定面積まで評価減が行われるまではよいのですが、ローンがある場合には、入居者がなく、困った事例も多くあります。入居者の便益でなく、自らの希望を優先させると、田んぼのど真ん中に入居者のいない賃貸マンションが建つことになります。
Q13)高層マンションを買う
A13)高層マンションは上階へ行くほど平米あたりの単価は高くなるのですが、相続税評価は固定資産税に準じて、土地の共有持ち分、建物の持ち分とも専有面積に応じて計算されますので、下層階では、買値の概ね70%程度の相続税評価となるのに対して、上層階では、30から40%の評価になります。このことを使った節税法ですが、ローンの問題、結構高い買い物になりますので、誰もが実行できるわけではありませんし、マンションは不動産というより利便性を買うもので、土地付き一戸建て不動産と同様の財産とはいえないと思います。
Q14)配偶者の税額軽減
A14)配偶者の税額軽減は1億6千万円か法定相続分のいずれか高い方に相当する額までの金額ですので、有用ですし、通常、女性が残り、年齢も低いわけですから、老後の生活のことも考えて、奥様に多くを残されることが宜しいかと存じます。なお、このとき遺言書があれば、遺留分を侵害しない限り、被相続人の遺志は生かされます。
Q15)法定相続人の数を増やす
A15)養子縁組をするのですが、確かに法定相続人が増えて、相続税の総額も減るのですが、誰にするのかが問題です。お孫様ということも多いのでしょうか、若いときに過分の財産を貰い勤労意欲をなくすこととなっては意味がありませんし、子供の配偶者も離婚の場合には厄介なことになります。
他にも沢山ありますが、まずは、主だったところのご紹介まで。また、遺言書を先にお勧めしましたが、ページを変えて、さらにご説明をと考えております。
(本文、終わり)