医療法人Q&A

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2014年12月リニューアル

目次

Ⅰ 制度のあらまし
1.一人医師医療法人制度の趣旨
2.医療法人の種類とその相違点
3.一人医師医療法人から病院医療法人への転換
4.診療所の経営主体
5.複数の診療所の開設
6.設立認可申請時期
7.中間法人としての医療法人
8.特定の医療法人
9.特別の医療法人
10.機関とその権限
11.個人経営との違い
12.附帯業務
13.MS法人
14.指導・監督
15.介護保険サービス事業
Ⅱ  税  金
21.税制のあらまし
22.理事長、青色専従者及び家族従業員の所得税
23.4段階税制
Ⅲ  設  立
31.資産要件・運転資金
32.名称
33.主たる事務所の所在地
34.出資金
35.社員とは?
36.役員.
37.借入金、診療報酬未収入金の引継
38.医療機器、薬品の引継
39.設立時の課税問題
40.設立前後の消費税
41.医療機器等譲渡の消費税
42.院長からの土地建物の賃貸借
43.賃貸借契約の引継
44.会計年度
45.定時社員総会
46.保健所の立入検査
47.設立申請手続きのスケジュール
48.設立に伴う諸費用
Ⅳ  運  営 
61.設立後の諸手続と費用
62.社会保険と労働保険
63.小規模共済(院長の退職金制度)
64.役員退職金
Ⅴ  継承と処分 
71.息子に診療所を譲る
72.後継者が医師の場合
73.後継者が医学生の場合
74.後継者が医学入学前の場合
75.診療所の経営を譲ったときの税金
76.後継者がなく、法人を売却するとき
77.法人売却時の税金
78.法人の解散(買い手がない場合)
79.「出資額限度法人」

Ⅰ 制度のあらまし

Q1.一人医師医療法人とは、どのような法人でしょうか。

A1.昭和60年(1985年)12月の医療法改正により設立要件が緩和された結果、医師一人で足りるようになり、診療所経営を法人形態で行うことができるようになりました。これは診療所経営と医師個人の家計を分離することにより、プライマリ・ケアという重要な役割を担っている診療所の設備、機能の充実を図るとともに、経営基盤を強化し、診療所経営の近代化、合理化を図ることを目的としたものであるとされます。

 なお、医療法上は、従前の医療法人と一人医師医療法人とは同じものですが、原則として診療所を経営するとして位置づけられていますので、病院を経営する医療法人とは別のものとの取扱いがなされています。

 平成18年度医療法改正で、大幅改正が行われました。主な内容は次のようです。

1)平成19年4月1日以降申請の医療法人の残余財産の帰属先について国、都道府県等に帰属させることになりました。 但し、現存若しくは3月末までの申請の法人については従来通りとなります。(「当分の間」ということですので、財産没収には法律の制定が必要になります。)

2)僻地医療などを担うべき新たな社会医療法人が平成19年4月以降に誕生し、2年間の経過措置を残し、特別医療法人が消滅します。

Q2.医療法人の種類とその相違点を教えて下さい。

A2.医療法人の種類は次の3種類ですが、一人医師医療法人はこのうち、殆どが「持分の定めのある社団」として設立運営されます。また、都道府県により「持分の定めのある社団」のみの設立を認め、他を排除する指導を行っています。

 以下、このタイプの法人(持分の定めのある社団)を対象に説明します。

イ)財団(財産は寄付されますので、財産権はありません。)

ロ)持分の定めのない社団(財団と同じく財産権はありません。)

ハ)持分の定めのある社団(財産権があります。社員脱退もしくは解散時に持ち分の払戻を受けることが出来ます。)

 なお、持ち分の定めのある法人について、「出資額限度法人」があります。詳しくはQ&A79をご覧下さい。

 平成18年度医療法改正で、平成19年4月1日以降申請の医療法人で「持分の定めのある社団」は出資額限度法人に限定されます。なお、「持分の定めのない社団」ないし「財団」は従来通り認められる見込みです。

Q3.一人医療法人から病院医療法人に切り替える場合の手続きはどのようにすればよいでしょうか。

A3.一人医師医療法人と病院医療法人とは別のものとする取扱いなのですが、このほか、病院を新たに開設することは、地域医療計画ともからんでくることになりますので、一人医師医療法人から病院医療法人に転換することは現状では法令上もしくは法令外の指導があり、困難と思われます。

Q4.診療所の開設は個人(歯科)医師以外は医療法人だけしかできませんか。

A4.法令上の制限はありませんが、個人(歯科)医師が診療所を開設するには、原則的には届出で足りるのに対し、医療法人や会社が開設するには都道府県知事の許可が必要ですので、ここで医療法人や公益法人以外は排除されます。

 なお、過去においては営利法人に病院の開設を認めた例もあり、現存するものでは株式会社互恵会大阪回生病院がそうです。株式会社の社員の福利厚生施設として開設が許可される場合もあります。

 また、規制緩和の一項目として、株式会社などの営利法人がその会社等の目的として診療所・病院を開設することが上げられています。今後のこととしては、医療法人や公益法人以外の営利法人が病院や診療所を経営することも「行政改革」の俎上にあります。また、一方で医療法人をより一層、公益法人に近づけようとする動きもあります。社会保険制度の改革の取引材料となるなど、政治色が強く、将来の予想は困難です。

Q5.① 2カ所の診療所を開設する一人医師医療法人の設立はできますか。

② 医科と歯科の2カ所の診療所を開設する一人医師医療法人の設立はできますか。 

③ 例えば、大阪府内と奈良県内に1カ所ずつ(合計2カ所)の診療所を開設する一人医師医療法人の設立はできますか。.

A5.① できますが、従たる診療所の管理者は理事に加えなければなりません。 
② できます。 

③ できますが、複数の都道府県にまたがる場合、厚生労働省の所轄になりますので、厚生労働大臣の認可を受けなければなりません。ただし、いずれも医師会の反対があったり、都道府県の指導が行われる場合があります。

Q6.医療法人の設立は自由にできますか。

A6.形式的には医療審議会の審議を経ることにより都道府県知事の認可を得られ、登記を完了することにより医療法人の設立ができます。

 医療審議会の開催が通常年2回程度となっていますので、いつでも好きなときに設立することが出来る訳ではありませんが、申請書などの形式的要件が整えば設立可能です。なお、設立認可時点において、都道府県によって診療所の実績が1年以上あることを条件にすることがあります。

Q7.医療法人は公益法人でしょうか営利法人でしょうか。税金などの優遇措置はあるのでしょうか。

A7.中間的な法人とされます。また、知事の監督を受け、種々の届出を必要とするなど規制面では公益法人と同じようなところがありますが、学校法人などのように補助金は出ませんし、宗教法人のような税の特典もありません。

 税金面では株式会社などと全く同一の課税を受けます。ただし、配当が出来ないので、留保金課税を免れていますが、当然と言えば当然のことです。

 社会保険診療報酬に対する利益に対して事業税は非課税ですが、これは医療法人だから非課税ではなく、社会保険診療報酬そのものが非課税だからです。なお、医療法人は事業税に関する特別法人ですので、350万円を超える課税標準については若干軽減されますが、通常の場合、社会保険診療が殆どですので軽減措置を受けることは少ないようです。

 登記では協同組合のような中間法人として登録免許税がかかりません。(営利法人である株式会社では設立登記に15万円、役員変更登記に1万円以上の登録免許税が必要です。)なお、謄本や印鑑証明書の申請には通常の手数料が必要です。

Q8.法人税が安い医療法人があるそうですが、一人医師医療法人でもこれになれますか。

A8.法人税法上の制度として、「特定の医療法人」という制度があり、税率が緩和(課税所得(概ね税引前当期純利益)の金額に拘わらず、22%の法人税。事業税、県民税及び市民税についてもやや低い税率が適用)されますが、一人医師医療法人は持分のある社団ですので、これにはなれません。(平成14年3月末のデータで、認可された法人は325法人にすぎません。)

 「特定の医療法人」になるには財産権のない財団等であることのほか、役員のうちに親族等の占める割合が40%以下であること、自由診療報酬が社会保険診療報酬に準ずる金額であることなどが条件となっています。(財務大臣の認可も必要です。)

Q9.特別の医療法人という制度が平成9年度の医療法改正によって創設されたそうですが、どんな制度なのでしょうか?

A9.特別医療法人とは「役員の同族支配の制限など公的な運営を確保し、出資者の持分権は無く、地域において安定的に医療を提供することを目的とする医療法人」とされています。 

 平成10年4月から設立またはこの法人への変更が可能となっていますが、4年経過した時点での認可は24法人に留まっています。規模的にも普通の開業医が認可を求めるにふさわしい制度ではなさそうです。

Q10.一人医師医療法人の機関及びその権限などについて説明して下さい。また、具体的にはどうすればよろしいのでしょうか。

A10.① 一人医師医療法人は、原則として5名以上の社員から構成されますが、社員は株式会社で言えば株主に当たります。社員は現在のところ利益配当を受けることが出来ませんが、解散ないし脱退時には残余(持分割合の)財産の分配を受けることが出来ます。 株券にあたる出資証券は発行されませんが、贈与や譲渡は原則的に自由です。ただし、財産的な権利の譲渡などは自由ですが、社員となるには社員総会での承認が必要です。

 ② 社員総会は、一人医師医療法人の最高の意思決定機関で、株式会社の株主総会と同じ機能を持っており、役員を選任し、経営の基本方針など重要項目を決定します。また、次の事項は、社員総会の議決を必要とします。 (1)定款の変更 (2)予算、決算、剰余金(または損失金)の処理 (3)社員の入社及び除名 (4)解散 (5)他の医療法人との合併 (6)その他重要事項の決定 通常は予算と決算承認で、年2回開催されます。また、役員の任期が2年となっていますの2年毎に改選を行います。  株主総会と大きく違うのは、選挙や決議について、出資額の多寡にかかわらず、1社員1票となっていることです。従い、社員に新たに加入させるときは、注意を要します。

 ③理事会は理事によって構成されますが、より具体的に業務の執行の内容を決定します。理事会は決算、予算および理事長の選任のためのほか、随時に開催されます。 理事は社員総会で選任され、理事会のメンバーとして経営に参画しますが、経理担当理事などとして日常の業務に携わることが出来ます。  理事は理事長を含め、原則的に3名以上必要です。開設する診療所が1カ所で、知事の認可を得れば2名でも構いません。  理事長は、理事会によって理事の中より選任されますが、理事長は一人医師医療法人を代表し、その業務を実際に行います。

 ④監事は社員総会で選任されますが、会計と理事(長)の業務を監査します。

 ⑤実際上は、理事長は個人診療所の院長と同じ仕事を引き続きすればよく、特に改めてすることはありません。理事会については、理事は全員家族である場合が多いでしょうから、朝晩の食事の時などに理事長が経営上の諸問題等についてご相談され、これを決めていくような方式でも構いませんでしょう。 社員総会は、予算と決算の承認の関係上、年2回開催しなければなりませんが、出席できない社員の方には電話等で事前に了解を得て、上記理事会のような方法で、総会を開催する事も可能です。(欠席者を定足数に加えるには委任状が必要です。)

 なお、議事録等の書面を作らなければならないのですが、雛形も書物に多く掲載されているようですので、これを手本にワープロで作成されればよろしいでしょう。社員総会での決議内容は殆どパターン化されていますし、理事会も具体的な議事内容を要約して書けばよいので、そんなに手間なことではありません。また、会計事務所で議事録作成の代行をするケースも多いようです。

Q11.一人医師医療法人と個人(経営)とは、どのように違いますか。

A11.主な相違点を示すと以下のとおりです。

経営形態

一人医師医療法人

個  人

開設者 法人 医師個人
代表者 理事長 医師個人
執行機関 理事長・理事 医師個人
業務の範囲 診療所の経営・附帯業務 診療所の経営(※)
診療所の開設及び移転 事前に許可申請を必要とします。 原則的に、事後的に届出にて可
診療所の管理者 医師個人(理事長または理事) 医師個人
登記 必要 不要
決算の届出 必要 不要
会計年度 任意(1年) 1月1日~12月31日
税務申告及び納税  決算終了後2カ月以内に法人税、住民税及び事業税の申告及び納税を行う。  翌年3月15日までに所得税(住民税、事業税)の申告及び納税を行う。
課税関係 法人の利益について法人税等が課せられ、理事長は給与所得者として所得税等が課せられる。  診療所の利益について、事業所得として所得税等が課せられる。

(※):個人は診療所の経営の他に不動産事業など診療所以外の業務については原則的に自由にできます。

Q12.一人医師医療法人の附帯業務とはどういうものですか。

A12.医療法第42条に規定されている附帯業務の全部または一部を行うことができます。ただし、これらの附帯業務(下記①~④)を行うためには、必ず定款に定める必要があります。なお、新たに開始する場合には、定款変更手続と知事の認可を必要とします。(医療法第42条)

① 医療関係者の養成または再教育

② 医学に関する研究所の設置

③ 医療法第39条第1項に規定する診療所以外の診療所の開設

④ その他保健衛生、社会福祉に関する業務(老人保健施設・研究所・検査所など)

 なお、①は子弟を医学部に入れるというようなことではありません。 また、「介護保険サービス事業」(Q15&A15参照)は今後、一人医師医療法人が行う附帯事業の主なものとなるでしょう。

Q13.一人医師医療法人とMS(メディカルサービス)法人とは、どのように違いますか。

A13.一人医師医療法人は、医療法によって設立される半公益法人で、種々の法的もしくは行政指導的規制が加えられています。

 一方、MS法人は診療業務に付随する賃貸管理・各種のサービス(医薬品材料の仕入・在庫管理、保険請求や受付事務など)を提供する株式会社もしくは有限会社でもっぱら節税目的で設立されます。勿論、MS法人は診療所を経営することはできません。

 医療法人設立後は様々な節税効果があり、MS法人(会社)の持つ節税策を一部取り入れることができますので、これを作るメリットは少ないようです。手間と費用を考えますと、診療所レベルの規模では特にMS法人を作っても、経費倒れになりそうです。ただし、会計事務所としましては会社分の顧問料が増えますので、反対はしないと思います。個人診療所が法人成りできなかったときはともかく、現在では医療法人のみにて節税をはかる方が得策かと思います。

 また、MS法人の役員が、一人医師医療法人の役員に就任することは好ましくないとするのが都道府県の指導です。

Q14.一人医療法人に対する指導・監督手続きについて説明して下さい。

A14.医療法人に対する知事の指導・監督のあらましを次に示します。

 ① 医療法人の業務・会計に関する法令等の違反または運営の適正性の著しい欠如の場合には、報告をもとめ、立ち入り検査をすることがあります。(法第63条)

 ② 医療法人の業務・会計が法令等に違反または運営の適正性の著しい欠如の場合には、改善命令を出します。(法第64条第1項)

 ③ 改善命令に従わない医療法人に対しては、業務停止命令や、役員の解任勧告をします。(法第64条第2項)場合によっては、設立認可を取り消すこともできます。(法第66条)

 個人の診療所でも法令等に違反すれば、処罰されますので、法人になったからといって、処分が厳しくなるとは言えないと思います。適正な経営であれば、全く問題ありません。

Q15.一人医療法人が行う「介護保険サービス事業」について説明して下さい。

A15.「介護保険サービス事業」は医療法人の附帯事業として位置づけられています。診療所とは別の施設を設置するとか、別の名称を用いるのでなければ、定款を変更する必要はありません。

 いわゆる、医療系の介護保険サービスは、社会保険の保険医療機関の指定を受けておれば、介護保険の指定を受けているものと見なされますので、新たな手続きは必要ありません。

 この他、医療法人は都道府県の知事の認可を受けて、A12の①~④の事業を附帯事業として行うことが出来ます。(定款変更の認可と、さらに介護保険関係は介護保険事業者の認可が必要です。)

Ⅱ 税   金

Q21.一人医師医療法人の税制のあらましについて説明して下さい。あわせて、個人診療所と比べて有利かどうかも説明して下さい。

A21.診療所の経営は法人が行うことになりますので、診療報酬は法人に帰属することになり、諸経費を差し引いた法人の利益には法人税等が課せられます。

 一方、理事長は法人から支給される役員報酬が自由に処分できる所得となりますが、給与所得として、所得税等が課せられることになります。

 院長先生は、一人医師医療法人の役員(理事長)に、家族従業員は、理事(役員)または職員になることになりますが、いずれもが給与所得者になります。一般のサラリーマンと同じく、給与所得について所得税及び住民税が課税されます。なお、事業税はありません。

 院長先生も給与所得者になりますので、役員報酬から給与所得控除(40%から5%)を差し引いたものが課税の対象となります。もし、個人時代の事業所得と同額の役員報酬となった場合には給与所得控除分に対する所得税等が減少します。

 一人医師医療法人の利益(所得)には法人税及び住民税などが、課せられます。法人税及び住民税の率は年間800万円までの金額について約21%、これを超える部分について約35%です。なお、このほか利益の有無に拘わらず、住民税の均等割約7万円が課せられます。  自由診療報酬等に対する利益には事業税(2.7から5.3%)が課税されますが、この利益からは理事長報酬が控除されていますので、個人診療所のように人的控除(年290万円)はありませんが、個人時代と比べ事業税が大幅に増えることはありません。

 なお、社会保険診療報酬に対する事業税は非課税となっていますが、事業税の課税標準である自由診療報酬等に対する利益は利益合計額を各収入比で按分計算することになります。

 このほか、特別償却や税額控除など個人よりも法人の方が、税の優遇措置が多いようですし、すべてのケースにおいて必ずしも法人が有利であるとは言えませんが、医業以外の事業についてその多くが株式ないし有限会社形式で営まれているところからみて、一般的には会社や法人形式の経営が有利であることのようです。

 また、(歯科)医師会のご尽力もさることながら、利に賢く、合理性を重んじる伝統のある関西圏に一人医師医療法人の設立件数の多いことを考えれば、法人の有利性は疑いの余地のないことのようです。

Q22.理事長、青色専従者及び家族従業員の所得税(及び住民税)がどうなるのか、教えてください。また、節税効果についても触れてください。

A22.理事長は給与所得者となりますので、役員報酬から給与所得控除を差し引いた金額が課税所得となります。少なくとも、給与所得控除分の節税効果があります。

 奥様(青色専従者)は理事に就任されましても給与所得のままですが、経営責任の一環を担うことになりますので、より多くの給与を取ることができます。

 院長先生は経営責任の一部を軽減されますので、個人診療所の事業所得より少ない報酬額とするのが一般的ですが、このとき、所得税の累進税率構造によりご家族トータルとしての税額は減少しますので、その分、節税効果を生じます。

 なお、役員は法人が利益処分を禁じられているところから、賞与を受けることができません。また、税務上も法人の損金になりませんので不利です。

 家族従業員のうち、誰も生計を一にしない場合には変わりませんが、同一生計内、例えば、お子さま方が夏休みなどにアルバイトをされ、アルバイト料を支払っても個人診療所の必要経費にはなりませんでしたが、法人の場合には妥当な金額であれば損金(経費)となります。

 また、非常勤の理事や監事も置くことができますので、ご両親などに経営に参画いただくことにより役員報酬を出すこともできます。このとき、他に給与所得がなく、年額65万円以下であれば、全く税金がかかりませんし、扶養家族から外れることもありません。

Q23.① 一人医師医療法人の場合にも、個人と同様に白色申告は認められますか。② 一人医師医療法人の場合にも、租税特別措置法26条の所得計算の特例いわゆる「4段階税制」は認められますか。

A23.① 適正な法人の運営には帳簿をつけ、適切な会計を行うことが必要ですので、青色申告が適切な申告方法のようです。また、法人税法において青色申告には、種々の優遇措置が認められているため、青色申告の承認申請をする方が有利です。  

 ② 認められます(特措法67条)が、理事長報酬も経費に加わりますので、特例計算が有利となる事例は殆どありませんし、医師優遇税制であるところの「4段階税制」による実額との差額が大きければ、敢えて法人成りをするメリットはありません。

Ⅲ 設   立

Q31.一人医師医療法人設立時の資産について何か制約がありますか。

A31.① 一人医師医療法人の土地、建物等については、法人自体の資産であることは望ましい建前ですが、賃貸借契約が長期間にわたり、かつ、確実な場合は、賃借でも差し支えありません。例えば、期間が20年以上であるとか、一般の賃貸契約書にあるように2年ごと自動更新のようなケースも認められます。 また、他より賃借している場合のみならず、理事長自身の個人財産である場合にも、賃貸借契約により行われるのが殆んどです。不動産の現物出資は、譲渡所得課税の問題があり、ほとんど行われていません。

 ② 医療機器や薬品は現物出資ないし、設立後、個人から買い取る方法により取得します。一部の都道府県で、現物出資を求めていますが、設立後の買い取りの場合でも通常、帳簿価額で売買しますので、結果的には変わりはありません。  

 ③ このほか、一人医師医療法人を設立する場合には、2ヶ月以上の運転資金をもつことが望ましいとされていますが、税制面の理由から、一番多い例は、都道府県の要求する最低必要額の運転資金1,000万円の現金出資となっています。

Q32.モデル定款の一人医師医療法人の名称は「医療法人○○診療所」とありますが、「医療法人○○内科(医院、クリニック)」という表現も認められますか。

A32.認められます。また、医療法人○○会という名称も認められます。なお、同一市町村内(政令指定都市の場合は同一区内)で、すでに同一名称の医療法人がある場合にはその名称は一般的には認められません。なお、類似名称の判定は登記所でなく、都道府県の指導事項とされます。また、法人と診療所の名称の関係は、例えば、次のようです。


法人の名称

診療所名

医療法人○○会 (医療法人○○会)○○診療所
医療法人○○会 (医療法人○○会)○○クリニック
医療法人○○会 (医療法人○○会)○○内科
医療法人○○診療所 (医療法人)○○診療所
医療法人○○クリニック (医療法人)○○クリニック
医療法人○○内科 (医療法人)○○内科

 なお、名称中に社団もしくは財団を加えるよう指導する都道府県もあります。

Q33.一人医師医療法人の主たる事務所の所在地はどこにしたらよいのですか。

A33.原則として、診療所の所在地となります。同一都道府県内であれば理事長の自宅にすることも可能ですが、都道府県の指導では診療所の所在地としています。

 なお、法人税、法人住民税、源泉所得税などの納税地はその主たる事務所の所在地とされます。個人の所得税のように自宅または診療所のいずれかの都合の良い方とはできません。

Q34.設立時の出資金はどの程度必要でしょうか。また、現物出資は可能ですか。

A34.原則的に一人医師医療法人は現金出資としています。 一部の都道府県で医療機器や薬品を現物出資するよう求めていますが、実質的には、現金出資と変わるところはありません。

 不動産の現物出資は、譲渡所得課税の問題があり、ほとんど行われていません。

 出資金額は現金出資の場合、ほとんどの例では1,000万円となっています。医療法人は2ヶ月分の運転資金を必要としますが、この計算において、予算書をベースにする都道府県と過去の実績をベースにする都道府県とがあります。 現物出資を原則とする都道府県(例えば東京都など)では医療機器や薬品を現物出資し、その外に2ヶ月分の運転資金を必要としますので、一般的には出資金は1,000万円を越えることが多いようです。 

 なお、税務上は、1,000万円以下の出資金の方が有利となっています。(交際費や住民税の均等割などについて)

Q35.一人医師医療法人における  ① 社員とは? ② 社員になれる資格条件とは? ③ 社員は何名必要ですか?

A35.① 社員は一人医師医療法人の構成メンバーで、原則として出資者が社員総会の承認を得て、社員資格を取得することになります。 世間で言われてるところの社員(会社員)とは、全く別のもので株式会社では株主に当たります。

 よって、社員は、出資持分(原則として)、議決権及び選挙権(出資の多寡にかかわらず一人一議決権)を有するとともに、退社又は法人が解散した場合は出資持分に応じて払戻または分配を受けることができます。また、出資をしなくても、社員として認められますし、逆に、出資持分はあるが、社員ではない者も認められることになります。

 ② 社員となりうる資格については、法律上、意思能力があれば良いことになっていますが、都道府県の一般的な指導では18歳以上としています。なお、出資金の資金源がなければ、贈与(税)の問題が生じます。

 ③ 総社員は、原則として3~5名(役員も社員であれば、これに含みます。)以上必要であるとするのが、都道府県の指導です。

Q36.一人医師医療法人における  ① 役員とは? ② 役員の資格とは? ③ 役員は何名必要ですか?

A36.① 役員として、理事長・理事・監事を置かなければなりません。理事長と常務理事は理事の中から選任されます。なお、常務理事は都道府県により指導内容が違います。

 一人医師医療法人を代表する者は理事長だけです。よって、理事長が法人を代表して、法人の行為を行い、その効果は法人に帰属します。

 理事は、代表権を法的に有しない理事でありますが、職務分掌により、例えば経理担当理事として、医療機器の購入について決裁し、また、支払をなすことは可能です。非常勤の理事も選任できます。

 監事は、会社でいえば監査役にあたるもので、一人医師医療法人の監査(会計及び業務)を行います。

② 役員(理事長・理事・監事)は、社員であることが原則ですが、必要に応じ非社員からでも選任できます。役員は、自然人(個人)ありかつ意思能力(15歳程度以上)があることを要しますが、都道府県の一般的指導は20歳以上であることが望ましいとし、上限は特に指導はありません。

 なお、法人は就任できません。 公務員の方は、原則として役員になることはできません。(公務員法)

 また、次のいずれかに該当する人は、法令により役員になることができません。

 一、禁治産者または準禁治産者

 二、医療法・医師法・歯科医師法その他医事に関する法令の規定により罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わりまたは執行を受けることがなくなった日から起算して2年を経過しない者

三、前号に該当する者を除くほか、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わりまたは執行を受けることがなくなるまでの者

 理事長は、知事の認可を受けた場合以外は医師であることが必要です。法人の開設する診療所の管理者は、知事の認可を受けた場合を除きすべて理事(理事長を含む)としなければなりません。

 監事は、理事または法人の従業員を兼ねることはできません。かつ、理事長と従属的関係のない者とすることが望まれます。

③ 法人には、法人を運営するため役員として必ず理事3人以上と監事1人以上を置くことが原則です。ただし、理事については、診療所を1ヶ所のみ開設する場合に限り、知事の認可を受けて、特に2人(理事長1人・理事1人)とすることができます。

 理事のうち、その定数の5分の1を超える欠員が出たときには、1ヶ月以内にこれを補充しなければなりません。

Q37.個人開業医から一人医師医療法人に組織替えした場合の資産引継ぎの方法と引継ぎ価格及び課税問題について説明して下さい。

A37.① 個人開業医が一人医師医療法人に組織替えした場合に、個人の事業用財産を法人に引継ぐ方法には、その財産を現物出資する方法と一旦現金出資し設立後に法人に譲渡する方法とがありますますが、後者が一般的です。 以下、現金出資で設立後法人に譲渡する方法について説明します。   ② 引継ぎ価格と課税問題から不動産は賃貸とし、医薬品及び医療機器は個人から法人へ帳簿価額で譲渡(売買)するのが、一般的です。この方法によれば課税関係は生じません。

Q38.① 借入金を引き継ぐことはできますか。 ② 診療報酬の未収入金を引き継ぐことはできますか。

A38.① 都道府県により指導が異なりますが、引き継ぐことを可とする都道府県は、出資する財産に関係する借入金であることを求めるのが一般的です。

 引き継ぐことができない場合でも、不動産が個人所有であれば家賃の形で借入金の返済と支払利息の回収は可能でしょう。減価償却費や金利は不動産所得の必要経費になります。また、医療機器や医薬品を法人に譲渡しますので、その回収代金を借入金の返済に充当できます。

② できる都道府県とできない都道府県があります。もし、できない場合でも、実質的には変わらないことになります。このとき、法人の診療所がスタートしてもレセプト関係の振込は2ヶ月後となりますが、この間の運転資金は出資金で賄われることになります。(もし、法人の資金が不足する場合において、個人の資金を融通することは、何等差し支えありません。)

Q39.一人医師医療法人への法人成りに伴い個人時代の医療用機器・車両・医療品等を法人に譲渡し、引き継ぐことにしましたが、この場合、課税の取扱いはどのようになりますか。

A39.個人の所有していた資産を法人に引継ぐ場合、帳簿価額で行うのが、一般的ですが、この方法によれば、課税上の問題は生じません。

 なお、不動産は帳簿価額と適正価格(時価)とが乖離しており、譲渡所得課税などの問題が生じます。

Q40.一人医師医療法人設立時には、課税上どういう事が問題になりますか。

A40.一人医師医療法人の設立時に発生する課税問題について、法人と出資者に分けて説明すると次のようになります。

 ① 法人 現金出資で法人を設立した場合、医療機器等は設立後帳簿価額で買い取り、不動産は賃貸する方法では、課税関係は生じません。なお、現物出資の場合も不動産を除き、帳簿価額で受け入れすれば、課税関係は生じません。 

 ② 出資者 自らの財産を出資したので、株式を購入したと同じことなので、課税関係は生じません。学生など収入のない者が出資するときは資金の源泉を明らかにしておいた方が良いでしょう。

Q41.一人医師医療法人に法人成りした場合の消費税はどのようになるのでしょうか。

A41.消費税の納税義務の有無の判定は、事業者単位で行われますので、個人と法人とは別々に判断することとなります。

 資本金1,000万円以上のときは、法人成りをした当初2会計年度中は、個人の前々年の課税売上高(自由診療報酬など)が1,000万円未満であっても、その新設法人については課税事業者となります。(出資金が1,000万円未満のときは免除業者です。)

 従い、通常の場合、個人診療所時代に自由診療報酬等が1,000万円未満で免除事業者となっていても、設立直後の2年度は法人に消費税の納税義務が生じます。平均的には、自由診療報酬等の約2.5%分の消費税を支払わなければなりません。  その後は、前々年度の自由診療報酬等が1,000万円以上か未満かによって課税業者と免除業者の判定がなされます。

 自由診療報酬等が常に1,000万円を超え、5,000万円未満の規模であれば、簡易課税の選択も検討することをお勧めします。その有利不利は一概にいえませんが、税額の予測が容易で、手続き的敵にも楽です。詳しくは顧問の会計士等にご相談下さい。

 また、法人設立年度においても、個人が課税業者であった場合には従前通り、その年の1月1日から12月31日の間で個人開業医としての自由診療報酬等の課税売上高に対し、納税義務が生じます。

Q42.法人設立後に医薬品・診療材料・医療機器を個人が法人に譲渡した場合の消費税の課税関係はどうなるのでしょうか。

A42.資産の譲渡等に該当し消費税の課税対象になります。従って、個人が売却した医薬品・診療材料及び医療機器はその売却価額が消費税の課税の対象とされます。

 ただし、実際に消費税の支払い義務があるかどうかは、その個人が課税業者か免除業者かに関わることとなります。免除業者であれば、消費税支払い義務はありません。

 また、法人が購入した資産については課税仕入となります。この消費税分は課税売上げの消費税額から控除されます。   

Q43.個人所有である診療所の土地・建物は、現物出資しないで賃貸借契約によって、一人医師医療法人に賃貸することはできますか。

A43.法人に賃貸する方法が通常とられます。(診療所の土地・建物を現物出資して法人の資産にすることは一般的ではありません。)

 また、高額な医療用機器なども同様に賃貸するができます。

Q44.従来、個人開業医が賃貸していた診療所用のビル施設・土地または医療機器を法人が引き続き賃借することができますか。また、その場合の手続きはどうなりますか。

A44.法人が引き続き賃借することは差し支えありませんが、この場合は、不動産または医療機器の所有者の承諾をとりつけ、従来の個人所有者との賃貸借契約を終了させ、新たに所有者と法人との間で賃貸借契約を締結することが必要です。

 また、従来からある賃貸借契約の契約上の地位を個人から法人へ譲渡することも可能できます。

 このとき、敷金や保証金のうち返還されない部分(敷き引き)も引継ぐことにより、2度払いのないようにするように注意する必要があります。

Q45.一人医師医療法人の会計年度はどうすればよいでしょうか。

A45.会計期間は1年間ですが、何月何日から何月何日とする会計年度は定款に定めることにより、自由に決められます。

 なお、初年度は設立の日がスタートとなりますので、通常1年未満となりますが、支障ありません。

Q46.モデル定款に定時社員総会は、年2回開催とありますが、これは2回でなければならないのでしょうか。

A46.会計年度が始まるまでに予算を決定するためと、決算後2ヶ月以内に決算を承認するために社員総会を開催しなければなりません。

 このため、定時総会が決算期を挟んで、2回必要になります。例えば、3月決算の場合、一般的には2月ないし3月に予算承認総会を、5月に決算承認総会を開くことになります。

 このほか、役員の選任や定款変更など臨時に社員総会を開く場合があります。

Q47.法人設立について、保健所の立入検査はあるのでしょうか。

A47.一般的には、法人設立についての立入検査はありませんが、設立後の診療所開設許可申請についての担当吏員による立入検査が行われます。

 一般的には新規開設の場合より簡単な検査となります。

 なお、X線装置についても法人については設置届を提出しますので、検査対象となります。都道府県及び所轄保健所により対応が異なります。

Q49.設立申請等手続きのスケジュールを教えて下さい。

A49.例えば、大阪府では年2回一連の手続きが行われます。

 毎年1、7月の初旬に(歯科)医師会へ法人設立の意思表示を行い、各7月1日、翌年1月1日の法人診療所スタートとなります。

医師会への意思表示

7月初旬

1月初旬

設立手続き等説明会 8月初旬 2月初旬
申請書類の提出 8月末 2月末
府医療対策課のヒアリング 10月頃 4月頃
設立認可、登記 12月中旬 6月中旬
法人診療所のスタート 翌1月1日 7月1日

 なお、具体的な日程は、各都道府県へお問い合わせください。(※)

 一般的には、半年毎のサイクルで行われています。 (歯科)医師会加入者は会を経由して申請書を提出する例が多いようです。地元の(歯科)医師会にお確めください。

 (※)東京都はじめ多数の都道府県のホームページなどで、書式や要領を公開しています。

Q50.一人医師医療法人設立に伴う諸費用は、どのくらいですか。

A50.代表的なものをあげますと以下のとおりです。

 ① 専門家に業務を委任する場合には次の事務手続きの報酬手数料が必要です。なお、依頼される場合には個別の金額となるのか、合計額なのか確かめておいた方がよろしいでしょう。

 イ)設立認可申請書類作成 、ロ)設立登記、ハ)保健所への開設許可申請及び開廃届等の書類作成 、ニ)社会保険医療機関指定申請書類作成、ホ)労働保険(労災、雇用)、ヘ)社会保険(健保、年金)等の切り替え手続き

 ② 法人診療所の開設許可申請には開設許可手数料が必要です。

 無床の場合:15,000円程度、有床の場合:30,000円程度(検査手数料15,000円程度が含まれます)

 ③ レントゲン装置についての再検査料や、診療所設備に不備があれば、工事費を必要とします。

 ④ その他、印鑑証明や銀行残高証明について、手数料が必要です。

 ⑤ 法人の実印やゴム印を作るのでしたら、その彫刻代も必要です。

Ⅳ 運   営

Q61.設立後の諸手続きと費用について、教えて下さい。

A61.個人診療所と同様の手続きも必要ですが、そのほか毎決算期毎に次の手続きが必要です。

a.税務官署への法人税等の申告書


b.都道府県へ決算届、資産の総額変更登記完了届


c.登記所へ資産の総額変更申請書


 2年毎に役員の任期が来ますので、次の手続きが必要です。

a.登記所へ理事長の重任登記申請書


b.都道府県へ役員変更登記完了届


 また、必要に応じ次の申請等をすることになります。

a.都道府県へ役員変更届、定款変更申請


b.社会保険事務局への変更届


c.保健所への変更届


d.登記所へ各種変更登記申請


 なお、これらの手続きも会計事務所等が代行する例が多いと思われます。これら届出、申請及び登記申請そのものには手数料や登録免許税は必要ありませんが、お任せになるのでしたら、報酬等を事前に確かめておかれた方が良いでしょう。また、顧問料なども法人成りとともに少しアップとなりますようです。

Q62.社会保険(健康保険、年金保険)と労働保険(労災保険、雇用保険)はどうなりますか。

A62.法人になりますと、社会保険は一応、強制加入(個人診療所でも、常勤5名以上で強制加入)ということになります。

 健康保険は(歯科)医師国民健康保険に加入されている例が多く、このままのほうが有利な場合が多いでしょうから診療所としては、厚生年金のみの加入ということになります。(社会保険事務所に健康保険適用除外申請を行います。この結果、健康保険は従来通り、医師国民健康保険組合に、厚生年金は社会保険事務所に申請手続きを行うことになります。)

 常勤者と勤務時間が常勤者の4分の3以上のパートタイマーが厚生年金の対象者となりますので、院長先生と奥様と短時間パートタイマーで運営されている場合には、院長先生と奥様のみが国民年金から厚生年金に切り替えわる場合が多いようです。

 なお、96年に全国的に、厚生年金に未加入の医療法人と加入済み法人のうち代表者が未加入の法人などについて会計検査院による社会保険事務所への検査が行われ、未加入の法人については、検査月の1日付けで加入手続きを行うことになりました。

 その後、医師国保の加入については厚生年金加入が確認されることが多くなっています。

 労働保険については、そのままの形で法人に引き継がれますので、もし、法人化後、間もなく辞められた場合でも個人診療所の勤務期間を通算して雇用保険を受けられます。(変更の届出手続きが必要です。)なお、院長先生と奥様のような家族従事者は原則として、雇用保険及び労災保険の対象者とはなりません。

Q63.小規模共済(院長の退職金制度)掛金を毎月支払っているが、これは法人になっても続けられますか。

A63.医療法人の場合、この共済を続けることは出来ません。

 一般退職として、一番有利な給付金を受けることになります。掛けていた年数にもよりますが、銀行の積立預金より良い利率で貯金していたくらいの給付金となります。

 なお、これは退職所得として課税されますが、年数に応じて退職所得控除があり、更に2分の1分離課税ですので、せいぜい数%程度ですし、住民税も含め天引きされて送金されますので、改めて税金の心配は要りません。

 個人診療所時代の小規模共済掛金は社会保険料と同様に課税所得から控除され税金は安くなっていましたので、ご損な取引ではありません。

Q64.引退時にまとまったお金(役員退職金)が欲しいのですが、何か良い方法はありますか。

A64.退職時に役員退職慰労金(退職金)を受け取ることが出来ますし、これは退職所得として税務上、有利になっています。

 ただし、法人に支払い資金が無くては絵に描いた餅になってしまいますので、その資金を準備することも必要でしょう。

 後継者がおられましたら、分割払いという形で法人の将来の剰余金を当てにすることも可能ですが、退職までに何らかの形で、法人の資産を増やしておくことが必要です。生命保険契約の形で残されますのも一つの方法ですが、我が国の保険契約はややもすると必要以上にかけられている例が多いようですので、慎重に対処する必要がありそうです。

 ところで、生命保険契約を締結する場合、目的を定年退職時の退職金の資金確保とするのか、万一の場合の備えにするのかも考慮する必要があります。また、法人の預金から払い出す方法もありますが、法人税の洗礼を受けた剰余金が原資なので、法人税と所得税の二重課税を受けているとも考えられなくもありません。

 含み益のある資産を売却し、これを資金に退職金を支払えば良いのですが、土地を持っていれば良かった時代は過ぎましたので、なかなかにうまいものが見つからないのが現実のようです。  その他諸般の事情を考慮し、慎重に準備する必要があります。

Q65.法人契約の生命保険にすると保険料が損金(経費)となり節税になりますか。

A65.受取人を法人にすると保険料が損金(経費)になることがあります。なお、掛け捨て保険のような場合には全額損金になりますが、保険料の中に積み立て部分があれば、それは法人の資産となります。

 万一の場合などで保険金を受取った場合には、保険金は法人の収入になり、上記積み立て分を超える部分については課税対象になります。節税のためには、役員退職金の支払いと連動させる必要があります。

Ⅴ 継承と処分

 平成19年4月1日以降申請の医療法人解散時、残余財産(持分の)払い戻しは出来ませんご注意下さい。

Q71.10年ほどしたら、息子に診療所を譲り非常勤の勤務医として働きたいが、手続きは面倒ですか?

A71.理事長を退任することは必要ではありませんが、管理(歯科)医師の変更をする必要があります。保健所と都道府県保険課へ事後の変更届で足ります。

 理事長もお譲りになる場合には、このほか理事長の変更登記申請(登記所)と変更届(都道府県の医療法人担当部署と社会保険事務局)をする必要がありますが、原則的には事前に了解を必要とする手続きではありません。

 個人の診療所で行うより難しくなるというようなことはなく、個人診療所で、院長先生が万一の時に急遽、継承の手続きをとるよりも時間的に余裕のあるときに出来ます分、容易であると言えます。

 なお、理事長のまま診療所を譲られた後に、理事長先生に万一のことがあった場合には、上記の診療所と理事長を同時に譲られるときの後半の手続き(登記と届出)をされればよいことになります。このため、世代交代は個人診療所より円滑となります。

Q72.後継者がおり、診療所を手伝ってくれていますが、当面私が診療所の経営を続けることにしたいと思っています。このとき私(理事長)に万一のことが起こればどうなりますか。

A72.診療所は医療法人が経営していますので、理事長及び管理(歯科)医師の変更手続きということになります。上にも述べましたように、事後の届出ですので、事前の承認を必要としません。

 後継者が他の病院等の勤務医である場合でも同じです。

Q73.後継者はいるのですが、まだ医学生なので、開業医として一人立ち出来る前に私に万一のことがあればと心配です。

A73.現在の厚生労働省の取扱いでは理事長先生に万一の場合が生じた場合でも、その子女がインターンまたは医学生の場合、配偶者が理事長となり、代診の先生を管理(歯科)医師とし、診療所を継続することが可能としています。理事長となる配偶者は非(歯科)医師でも、勿論、構いません。

 なお、この取扱いは、個人診療所についても認められています。

Q74.後継者にしたい者はいるが、まだ医学部に入学していない場合には、上の取扱いを受けることはできますか。.

A74.非(歯科)医師が理事長就任については現状では知事の認可を必要としますが、上記の場合のほか平成10年の旧厚生省通知により一定条件の下でも認可がされます。ただし、後者は4年を経過した時点でも都道府県単位で数件程度のようです。

 ところで、平成14年3月の閣議決定により、平成14年の早い時期に一定の欠格事由を除き、非医師の理事長就任も可能とするよう措置するとしていましたが、改正法案は秋の通常国会で政治決着し、実質廃案となりました。非(歯科)医師を理事長にすることは可能ですが、規制緩和は少なく、条件は厳しいようです。

 なお、現状では、どなたか(歯科)医師の方を非常勤で理事長に迎えて、後継者が育つまで勤務(歯科)医師を管理者とし診療所を継続することも、法令上は可能で、この方法が一番無難なようです。このとき、地元の(歯科)医師会の反対もしくは都道府県の指導があるかも知れません。

Q75.後継者に診療所を譲ったとき、何らかの税金がかかりますか。

A75.診療所は法人の持物ですので、診療所の経営を後継者に譲られても、贈与税も所得税もかかりません。

 ただし、持分を譲られた場合、無償のときは受贈者に贈与税が、有償のときは譲渡者に所得税及び住民税が課せられます。

 贈与税は1年に110万円を超える額については10%から金額に応じて、累進的に課税されますので、計画的にしかも評価が上昇しない早い時期に贈与されますことをお勧めします。

 譲渡のとき、時価で行われなければなりませんが、早い時期ですと時価と額面が同じなので差益はなく所得税等が生じません。贈与と譲渡(法人持分の売却)を組み合わせ上手に持分を移動させることが得策です。   

Q76.診療所は結構繁盛しているのですが、残念なことに後継者がありません。先の話ですが、診療所を閉めるときには法人は解散しなければならないのでしょうか。

A76.どなたか診療所を譲り受けたいという方があれば、法人の持分を売却し、法人財産であるところの医療機器、カルテなどのすべての資産負債を一切合切、譲渡することができます。

 値段は、医療機器などの資産から未払金などの負債を差し引いた純財産のほか、診療所の収益力をも加味されるのが一般的ですので、先生が今まで培ってこられた「暖簾(診療所の営業権)」も無駄にはならないようですし、新しく始める方にとっても開業当初の収入不足に悩まされることはなくなりますので、双方にとってメリットのあることと言えます。

 なお、このとき診療所建物がご自宅と同じ建物の場合、借家権などの問題が出てきます。それまでは、ご自身とご自身が経営する医療法人との間の契約ですから、内容が法人に有利になっている例が多いでしょうから、対等な関係になるよう、賃貸契約の見直しなどが必要です。  

Q77.上記の場合(法人の売却)において、税金はどうなるのでしょうか。

A77.法人持分の売却は株式(非上場)等の譲渡所得(申告分離課税)として、売却価額から出資額(または購入価額)を差し引いた差額に対し、他の所得とは関係なく所得税住民税合計で、20%の税金がかかります。

 なお、このとき役員も交代となりますので、先に退職金の支給を受けますと売却価額は下がりますが、その分税務上有利な退職所得(分離課税)を得ることができますので、最高で収入総額の20%程度の税額で済ますことができそうです。

Q78.診療所を閉めるについて、法人の買い手がない場合どうなるのでしょうか。国に没収されるのでしょうか。

A78.知事の認可を得て、法人の清算手続きをとることになります。つまり、個別の財産を一つ一つもしくは一括して売却し、未払金などの負債は返済し、残額を各出資者に持分に応じて分配することになります。 出資限度法人の場合には、出資額を限度としての払い戻しです。

 現金化するときの金額と帳簿価額との差額は清算所得として法人税等の課税対象となり、受け取った出資者は受取額と出資額(または購入価額)との差額は配当所得としてほかの所得と合算して所得税及び住民税が課せられます。(額面金額以外での出資持分の取得の場合や資本準備金がある場合には、少し異なる計算となります。)

 勿論このとき、役員退職金の支給を受けることも可能ですし、これが退職所得となることは持分売却のときと同じです。一般的には、配当所得よりも、退職所得の方が有利です。

 なお、一人医師医療法人は一般的には「持分のある社団」として設立されますが、これではなく、財団とか社団であっても持分のないときは財産権はありませんので、他の医療法人へ合併されたり、財産を没収されたりします。(Q2&A2参照)

 平成19年4月1日以降申請の医療法人は解散時、残余財産(持分の)払い戻しは出来ません。

Q79.「出資額限度法人」について説明してください。

A79.持分の定めのある医療法人では社員が脱退するときには、その持分に応じた払い戻しをするのですが、例えば兄弟で病院を経営されていた場合に、一方が亡くなられ後継者がいなければ、出資持分についてご遺族は相続税が課せられ、医療法人側としては多額の出資持分の払い戻しの請求を受けることになります。

 このとき、一般的に医療法人の資産の多くが不動産や医療機器などの固定資産であるため、現金でもって払い戻すことが困難となります。このような事態に備えるために考え出されたのが「出資額限度法人」です。つまり、定款を変更して、払い戻しを出資額以下にすることにより、相続税の負担を軽くし、医療法人からの出資持分の払い戻しが可能に出来るようにしようとする制度です。

 勿論、定款を変更しようとする場合には都道府県の知事の認可が必要ですが、そのときの条件として、解散した場合にも出資額を限度とした払い戻しのみしか受けられません。余剰金は原則としてので、国等に帰属することになります。

 このように諸刃の剣ですので、、慎重な対応が必要です。特別(社会)医療法人、特定医療法人などの制度との比較考量の上お決めになることをお奨めします。

 平成19年4月1日以降申請の「持分の定めのある社団」タイプの医療法人はこの「出資額限度法人」に限られることになりました。

* 設立手続きなどは都道府県により若干、行政指導が異なります。都道府県もしくは地元(歯科)医師会へ事前にお問い合わせください。なお、(歯科)医師会加入者は会を経由して申請書を提出する例が多いようです。申請書や届出書などの様式については各都道府県や厚生労働省のホームページで公開されるようになってきています。

** 本来医療法という法律に基づき設立されるものですが、行政指導は都道府県により大きく異なる場合があります。これらの中には、法令に明らかに反するものや個人的見解に過ぎないものまで色々あります。また、指導内容そのものも公表されていたり、しなかったりします。一般に、多くの医療法人の設立が行われている都道府県の方が指導内容は合理的で公表されていることが多いようです。

*** 以上に述べましたところは、各都道府県にほぼ共通する内容と思いますが、今後、このQ&Aを改訂する際に各府県ごとの指導内容の相違点なども加えて行きたいと存じます。なお、各府県の特殊な指導内容につきまして、電子メール等でお知らせいただければ幸いです。

****  平成21年4月1日現在の税法に従い、税率等の記載がなされています。法人税等につきましては平成21年4月1日以降開始事業年度からの、所得税等につきましては平成21年度以降の所得についての税率等です。

(以上、本文終わり)  第24版(平成20年8月17日)

<参考文献> ☆「医療法人制度の解説」 医療法人問題研究会(旧厚生省健康政策局指導課)監修 日本法令発行    ☆「社会医療法人、特定医療法人 Q&A」 長英一郎著 清文社刊